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そう考えて思わず浮かんだ俺の笑みを、古泉が珍しそうに見つめていた。
「あなたのそんな表情、僕の前でも見せるのですね」
どうやら、からかわれたらしい。
瞬時にムッと眉を寄せた俺に、古泉はいつもの肩をすくめたポーズで苦笑い。
「失礼、でも本心なんですよ?あなたのそんな顔は…そうですね、往々にして朝比奈さんの前だけでしょう?」
それは確かに事実だ。
事実なのだが、ほんの少しの誤解が含まれている。
「男に愛想を振りまく趣味はないね」
俺の口をついて出たこれもまた事実。
だがこれは人間という種族の中のオスという分類に対して、という漠然とした意味だ。
そして、目の前で妙に見た者に罪悪感を浮かばせる苦笑いを浮かべるこの一個人に関しては何の意味も持たない。
つまりは。
世間一般の概念に当てはめるまでもなくイケメンの部類に入るこの男の顔を見てしまえば、羞恥やら緊張やら萎縮やらでごちゃごちゃになった俺の頭は、必要以上の防御反応を取るように普段の三割り増しで眉を寄せてしまうと、そういうことだ。
「ふふ、真っ当な意見ですね」
何を思ったか古泉は、わりと長い時間一緒にいるだろう俺が珍しいと感じる程に楽しそうに笑った。
しかし、なんだこの違和感は。
また…何かを隠してやがるのか?
とはいえ、今の俺に問い詰めることなど出来やしない。
そんな立場じゃないことくらい重々承知しているからだ。
「…ハルヒがいないなら、ここにいる必要もない。帰るぞ」
隠し事をする古泉と、それを問い詰める勇気のない俺。
その両方にやり場のない怒りを感じて、イライラとした口調を隠すこともなく椅子から立ち上がり、鞄を掴んで廊下に出た。
「待って下さい、僕も…」
後ろから聞こえたその声も無視して、足早にそこを立ち去る。
なぜ誰もいない部室に古泉はひとりでいたのか。
その大切であるかもしれない疑問に俺が気付いたのは、自室でネクタイを外したその時だった。
聞けるタイミングなど、とっくの昔に過ぎ去っている。
まったく、自分が情けない。
end
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