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(side kyon)
「…奇遇ですね」
そんな使い古された言葉と共に振り返ったその顔は、見飽きる程に見慣れている、張り付けたようなあの笑顔。
刹那、俺が眉を寄せてしまったのは条件反射だと言っていい。
嬉しい嬉しくないに関わらず、無意識に顔をしかめてしまう。
この目の前のやつの言葉を借りるなら、もうほとんど癖のようなものだ。
「あぁ、本当に偶然だな。理由は聞くまでもなくアレか?」
「えぇ、言うまでもなくアレですよ」
俺の言葉そのままに返して、古泉はどこか楽しそうに笑って肩を竦めた。
「そういや最近そんな話は聞かなかったが、また多くなっているのか?」
もしそうなら、ハルヒのやつには何か言ってやらないと。
そうそう人の手を煩わせるようなことをさせてたまるものか。
そのうちに巻き込まれるのは、どう考えても確実に俺なのだろうからな。
そんなことを考えてぐっと深くなった俺の眉間の皺に気付いたからなのかはわからないが、古泉は大げさすぎる程にゆっくりと首を横に振る。
そして、そんなことはなかったのですが…。と苦笑い。
「あなたが、今日は涼宮さんをかまってあげなかったからではないのですか?」
「ペットと同等な言い方はやめろ」
俺は飼い主でも世話係でも、ましてや保護者でもない。
それにその冗談は笑えないだろう。
おまえの機関とやらの見解じゃそれもあり得る話らしいからな。
そんなことはない。と断言できないのが俺の悲しいところだ。
「おっと、失礼しました。これは完全に失言でしたね」
謝罪したように聞こえる言葉でも表情に変化はない。
少しだけ困ったように眉が下がっただけ。
その様子に、僅か感じる違和感。
何だ、この感覚の正体は。
探りを入れようとじっと見つめれば、今度は少し驚いたように眉が上がった。
「どうしたのですか?」
口元には笑みを浮かべたままで、今度は俺が見つめ返される。
そしてまた感じる違和感。
「古泉、おまえ…」
今回の俺の勘は正しかった。
足を踏み出して一歩だけ近付いた俺から逃げるように、すっとさりげなく距離を開ける。
俺の視線から右側を隠すように。
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