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「怪我、したのか。大丈夫なのか?」
回りくどいことは嫌いだ。
単刀直入に問えば、さっきよりもさらに困ったように眉が下がった。
「…そんなところだけ、鋭いのですね」
お手上げ、とでも言うように肩を竦めてから、今度は隠す様子もなく古泉の方から俺に一歩分近付く。
もう違和感は消えている。
そして見えた腕には、鮮明な赤。
「おまえ、それは大丈夫じゃないだろう!?」
どう考えても、それは冷静に会話している場合とは思えない。
焦った俺を見てまた古泉は笑った。
「能力のおかげですぐに治りますよ。ですから平気です」
あぁ、あのうさんくさい超能力というやつか。
だが今はそれどころじゃないだろうが。
いくら治るとはいえ、今現在の痛みはあるはず。
放っておけるか。
「手当てしてやる。家に来い」
幸いというかなんというか、ここは俺がサンダル履きでコンビニに行くくらいの近所だ。
そのまま帰らせるわけにはいかないだろう。
世間体的にも、俺の感情的にも。
いや、後者の方が重要か。
…痛々しくて見ていられない。
「いえ、大丈夫ですから。心配には及びません」
口当たりは柔らかくてもそれは完全な拒絶。
俺の心配なんて古泉にとっては必要のないものらしい。
まったく忌々しい。
「俺の心配に及ぶ。いいから来い」
いつもならここで引き下がるのが俺というものだろう。
だけど、それでいいのか。
それはいろいろな出来事の折に考えてきた。
ここで離れてしまっていいのか。
頷いていいのか、拒否していいのか。
本当にいろいろあった。
その根底にはいつも、
古泉の作り笑顔を俺はこのまま見ていられるのか。
それだけがあったような気がする。
とうに夕陽の落ちた路地には俺たち以外に誰もいないということが、どうやら俺を勇気付けているらしい。
お互いに一歩ずつ近付いたおかげでほとんど間のなくなっているのをいいことに、俺は左手を強く掴むと有無を言わせずに歩き出す。
「あの、ですから大丈夫だと…」
後ろから困っているらしい声が聞こえるが、知ったことか。
本当に大丈夫だろうということくらい、ちゃんとわかっている。
このまま帰したら単に俺自身の夢見が悪いだけだ。
そう、ただの自己満足。
繋いだ手の温もりが感慨深いなんて、本当に忌々しい。
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