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「年頃の男子なんだから、どうせ頭の中はエロいことでいっぱいなんでしょっ」
それなりに前後の繋がりがあったとはいえ、ほぼ突然という状態で放たれた我らが団長の言葉に、部屋中が凍り付いた。
…訂正。
長門さんだけは意に介さずページを捲っていたから、凍り付いたのは急須を落としかけた朝比奈さんと、ボードゲームの薄い説明書をテーブルに落とした彼。
僕はと言えば、目の前の盤面を眺めつつ頬杖で笑みは崩さずいつものスタンス。
それはともかく。
涼宮さんにとって先の発言は、約1名個人に向けての言葉だったらしく、まっすぐに視線が彼に突き刺さっている。
それを僕と朝比奈さんが確認した刹那、当の彼が弾かれたように顔を上げて僕を見つめた。
「……っ、」
性的な話題での彼の意識の先。
それが他の誰でもなく僕だということに、極上の優越感。
発言の相手でもなく、日頃から意識してるだろう彼女でもなく、僕。
しかし聡い彼のこと。
自分が視線を向けてしまった意味にはすぐ気付いて、あっと言う間に顔は戻される。
「おい、ハ…」
「古泉くんはあんたとは違うんだから、一緒にしない」
彼の何かしら言い訳をしようとしただろう言葉を遮って、端的に一刀両断。
もちろん、彼女の判断と理解は一般常識に当てはめるならごく真っ当。
つまりは説明などせずとも、彼の視線の意味など僕たち互いにしかわからないということだ。
誰もそれを感知などできはしないだろうということ。
自ら墓穴を掘ってどうするつもりなのか。
「…おまえがそう思いたいなら好きにしろ」
そんな風に思っていれば、一呼吸の間を置いて冷静さを取り戻した彼が溜め息を吐く。
そして落とした説明書にまた初めから一通り目を通して、ゲームのチップに手を掛けた。
そんな彼の反応は、予想以上に彼女の気を逸らすことに功を奏したらしい。
ふぅん…とつまらなそうに鼻を鳴らせば、彼女の話はまたぽんと突拍子もない方向へと飛んだ。
そしてそれを聞いてようやく安心したような溜め息を漏らした彼が、なぜだが酷く滑稽に見える。
盲目?
何とでも。
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