『滲んだ月』

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  ──森内孝之。36才。   孝之はキッチンの綾子に『ただいま』と声を掛け、背広を脱ぎながら浴室へ向かう。   夕食の準備が整い、孝之の脱いだものを片付け、互いの着替えを用意し綾子も脱衣する。   こうしてふたりで一緒に入浴し食事を済ませ、テレビを見ながら飲んでいる孝之の傍らで綾子は洗濯物をたたみ、食器の後片付けをする。 こんな当たり前の生活を続けて8年の月日が過ぎていた。   近所では『仲の良い夫婦』と専らの評判で、揃って清掃などの町内行事にも積極的に参加もする。   だが、孝之には妻子が別にいた。  
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