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月の光が眩い真夜中。
都や《ハルシオン地区》から数千キロメートル離れた、北にある荒原。
そこでルチアーノたちに《マーラの涙》という魔石を与えた男と女の二人組が、黄土色のマントに身を包み歩いていた。
女は言う。
「ルチアーノも、結局は力にのまれてダメだったわね。クーに至っては使いこなせてなかったみたいだし」
「なに、ただの余興だろう。そんなものに期待するのは、いささか夢を見すぎている」
それもそうね、と返した女はクルッと振り返り、背後から照らしていた月を眺める。
「あと少しで計画が――」
次の瞬間、自身の影から現れた漆黒の円錐形の物体が女の腹部を貫いた。そして傷口から血が噴き出す前に、女の頭部・胸部・両肩・両肘・両手・両膝を次々と棘状の物体が串刺しにしていく。
串刺しにされて全身が赤く染まっていく女の隣にいた男が急いであたりを見回すものの、彼らの周辺に人影はまったく見当たらない。
すると、この荒れ野に生えている数少ない木のうち一つの影が蠢いたかと思えば、少年の姿が現れた。
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