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「でね、ケンちゃんが連れてってくれたのが……」
2年B組、新しい教室で当然のように沙弓の隣に陣取った雅は、春休みの彼氏との思い出をツラツラと語り出した。
新しいクラスでは順番に自己紹介が始まっていたが、それを聞く気などないらしい。
「羽賀さん」
新しい担任が雅を呼んでいる。雅はそれに気付いているのかいないのか、惚気話を続行している。
「その後のケンちゃんったら可愛いの。帰り道にね」
「羽賀さん!」
「み、雅!雅の番だってば」
大きな声に、沙弓の方が焦ってしまった。
まだ30手前だろう若い女性教師は露骨に眉をひそめていた。
「……あ……」
そこで初めて担任の顔を正視した沙弓は、思わず声を漏らしてしまった。そして慌てて目を逸らす。
「……チッ」
雅の舌打ちが聞こえた。
彼女は担任教師の視線に対抗するかのように、思い切り不機嫌な顔で立ち上がった。
「羽賀雅。よろしく」
それだけ言ってドサッと座る。
明らかに雰囲気が悪くなるのを、沙弓は肌で感じていた。
(あぁ、もう……)
なんだか頭痛がしてくる。
結局その日、沙弓は担任と目を合わせることが出来なかった。
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