『彼』の失った時間

5/72
前へ
/1506ページ
次へ
「あーもうっ!ムカつく!」 初日は授業もなく、学校はすぐに終わった。 教室の戸を乱暴に開けて出て行く雅を、沙弓が本日何回目かわからないため息付きで追いかける。 「もー雅。ヒヤヒヤしちゃったよ。初日からあんなに先生につっ掛かって」 「だって!ムカつくんだもん。絶対自分は正しいみたいな顔しちゃってさ」 「でもさっきのは雅が悪いよ。クラスのみんなもびっくりしてたじゃん」 「沙弓以外のクラスの子なんてどうでもいいよ!」 「……」 またか、と沙弓は思った。返す言葉も見つからない。 中学の頃からそうだったのだが、雅は沙弓に異常に執着する。 どこに行くにも一緒なのはもちろん、沙弓が他の子と仲良くしているとすぐに拗ねる。 見た目は大人っぽい長身の美人であるのに、中身は驚く程に幼稚なのだ。
/1506ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42016人が本棚に入れています
本棚に追加