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その後も雅の愚痴は続いた。
しかし沙弓が辛抱強く宥めたのでそれも段々勢いを失ってきた。
ついに『でも・だって』レパートリーが尽きたところで今度は黙りこくってしまう。
これも、いつものこと。
沙弓は敢えて話をふらずに、電車から見える景色を楽しんでいた。
春は美しい。
ガタンゴトン。平和な各駅停車から見える世界は優しい色彩に包まれて幸せそうだ。
「……なんかごめん」
目的の駅につく前に、雅が口を開いた。
「沙弓までクラスに溶け込めなかったらあたしのせいだよね」
よく見るとその目に涙を溜めている。
「ごめんね。でもなんだかあの先生、似てるんだもん。田鍋智子に」
(―――……!)
胸がドキリと高鳴った。ひきつりそうな頬をなんとか止める。
(やっぱり、雅も)
そう思ったのを掻き消して、沙弓は言い切る。
「似てないよ。全然」
「そうかなぁ」
雅はほんの30分前までの激昂が嘘のように、しゅんとうなだれてしまっている。
そんなのに沙弓は慣れっこだ。何も言わずに軽く頭を撫でてやる。
……胸のモヤモヤは、無視することに決めた。
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