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※※※
「また逃げるんだ」
篤子は舌打ちをした。
隆之からのメールには返信せずに、鞄に携帯を放り込む。
目の前の鏡に映る少女は暗く冷たい表情をしていた。
「………あーあ、だめだめ」
鼻歌を歌いながら、鞄の中からポーチを取り出す。
笑顔を作って1番高くなるところに、オレンジのチークを入れていく。
笑え、笑え。
もっと無邪気に、屈託なく。
「だって、篤子は何にも覚えてないんだから。全部、忘れちゃったんだもん」
呪文のように繰り返すと、何時もの笑顔が作れるようになった。
「篤子ー!プリクラもうすぐ空くよ」
「はーい!すぐ行くぅ」
子供っぽく返事をして、篤子はゲームセンターのトイレを出る。
同じ制服を着た友人たちと、にっこり笑ってピース。
「この後どうする?」
「カラオケ行きたい!」
「………大丈夫」
「その前にたい焼き食べたいなー」
「それなら31でアイス食べよ」
「篤子は、何も覚えてないんだから」
「太るよ」
「うるさい!」
「まぁでも、甘い物食べたいね」
「たい焼き?アイス?」
「こんな風に、幸せに過ごしてていいんだ」
「………篤子?」
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