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「え?」
きょとんとした篤子に、友人たちは心配そうな眼差しを向ける。
「どうしたの?さっきからなんかブツブツ言ってるけど………」
「あ………」
篤子は一度瞬きをしたあと、眉尻を下げてにこりと笑った。
「何でもないよっ!篤子はたい焼きがいいな」
きゃあきゃあとにぎやかにたい焼き屋へと向かう中で、篤子は誰よりもはしゃいだ。
たい焼き、たい焼き。
何味食べよっかな。クリームもいいけど、チョコな気分かも。
そんな彼女を見て、友人たちは子供だと笑う。
篤子の心の中を、彼女たちは永久に知ることはないだろう。
ガラスのグラス入ったオレンジ色の液体は、オレンジジュースだと誰もが思う。
中身が絵の具を解いた水だとしても、外から見ているだけではわからないのだ。
「篤子は忘れた。もう覚えてない」
「ん?何か言った?」
なーんでもっ。
篤子は笑って、友人の腕に手を絡ませた。
どんなに努力をしてもなお、篤子の頭からは暗い記憶の影が消えない。
そのことを1番理解しているのは、彼女自身なのかもしれなかった。
しかし、篤子は、それを認めるつもりはなかった。
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