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龍之介の持つチープな作りのビニール傘。
沙弓が自然に隣に収まり、2人はゆっくりと雨の街に出た。
龍之介は雨が嫌いだった。
雨の日にはすべてのものが少しずつ色褪せる気がするのだ。
空、空気、人々や植物に至るまで、辛気臭く落ち込んでいるように見える。
―――特に3月28日の雨は。
「……映画、良かったな」
「うん、よかったね」
「ヒロインの女優可愛かったし」
「うん……可愛かった」
傘は右側、沙弓の方に傾いて、雨粒が黒いジャケットの左肩を容赦無く打ち付けていた。
「……雨、だね……」
「……あぁ」
「去年も雨だったね」
「……」
「去年もこんな風に、予報外れの雨だった」
沙弓の真っ黒で大きな瞳は、灰色の空を見上げていた。
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