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「大丈夫。わかってるよ」
沙弓が無理して笑顔を作った。
「……ごめん」
「いいってば。買い物はまた今度にしよ?」
「……ごめん」
「……ねぇ龍之介、」
その『ごめん』は、
誰に言ってるの?
何を謝っているの。
沙弓は言いかけた言葉を、喉の奥に仕舞い込んだ。
「もうすぐ2年生だね」
「あぁ」
「高校生活、三分の一が終わったんだもん。早いよねぇ」
「卒業してから早かったよな」
お互い絞り出すような会話を続けながら、龍之介は思う。
この先、何度この日を迎えても、2人は心からは笑えないだろう。
何年、何十年が過ぎても。
―――3月28日が晴れない限り。
沙弓はそんな龍之介の腕をとり、自分に言い聞かせるように言った。
「来年は晴れるよ。きっと」
「そうだよな。晴れる。絶対」
言いながら、2人の胸はじっとりとした雨の予感に抱かれていた。
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