『彼』の失った時間

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新学期。 沙弓は久し振りの制服姿を全身鏡でチェックしていた。 紺衿のセーラー服の上にベージュのカーディガン。 緩めに大きく結んだ赤いリボンが可愛いと評判の、真澄台女子高校の制服である。 校風・学力・立地条件、その他どれをとってもぱっとしない公立高校だが、この制服目当ての入学者が毎年とても多いことで有名だった。 「やっぱり、巻いたほうがいいかも」 今年から先輩だし、放課後予定もあることだしね。 そう1人ごちて、沙弓は温めたヘアアイロンで丁寧に髪を巻いていった。 ナチュラルメイクによく似合う、黒の優しい巻き髪が完成。 誕生日に龍之介に貰った小さなクロスのネックレスをつければ準備完了だ。 「……よし」 時計を見ると丁度良い時間だった。 沙弓は母の用意した朝食には手をつけずに、家を出ることにした。
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