番傘

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番傘

穴が空いてしまった番傘。 大きく空いてしまった穴を静かに眺めていた。 着物を着た男性が「貸してごらんなさい」と私の傘を手に取って、その人は傘を直してくれた。 着物がよく似合い、白い肌をした笑顔を浮かべるその人。 「ありがとうございます。」 「いいえ。雨、止みませんね。」 その人は私に藍色のハンカチを渡してくれました。 その色によく似た髪色。長い髪を後ろに束ねて、その人は言った。 「そうですね。傘、乾いたので私行きますね。ハンカチ、ありがとうございます。」 朱色の番傘をさして、静かにお辞儀をした。 どこかその人は淋しげに微笑む。 「こちらこそ、話し相手になって頂いてありがとうございます。」 それからあの人と会うことはありませんでした。
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