第2章 奇跡

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桜の木の下で、二人とも頬を赤らめさせながら将来を誓いあった。『愛してる』と私が妻に言ったあの言葉。その言葉だけは思い出して欲しい。妻が病気になる前までは、毎年行ったあの場所。病気になってからは、行けなかった。病気になる前の妻と今の妻と比較してしまうような気がして、全く行けない。ずっと同じ妻なのに・・・。それに、言葉を思い出してくれるのかも、不安でたまらなかった。でも思い出して欲しいのだ。 今年ももうすぐ桜の季節がやってくる。今日までは行かないと決めていた。だが今日、私の事を思い出した妻にかけてみたいと思った。 記憶を全て無くしているのでは無い。妻の芯はしっかりしている。その芯に語りかけていく事で、少しでも記憶を呼びさましてあげたい。妻の言葉に出なくっても、きっと心には届いているはず。
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