第三章 桜

5/5

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
妻は私の手を握った。妻の手から暖かさが伝わってくる。 「…桜…とても大切な場所なのよ…」 希望が一気に膨れ上がる。 「…お前…。」 早く妻の次の言葉が聞きたい。 「…この桜…そうなのよ。私とあなたが愛を誓いあった場所。あのプロポーズの言葉…『愛してる』。ずっと一緒に生きていたんだね!」 やっと思い出してくれた。私がどれほど心待ちにしていたか。やっぱり心で覚えていてくれたよ。私は妻を抱きしめた。 「ああ、愛してるんだ。愛してる気持ちは、今もこれからもずっと変わらない。これからも共に生きていけるよ。」 共に生きていける。思いはずっと妻に伝わっていたのだから。 その夜、二人は若い頃のように、そっと手を繋いで帰って行った。 旅行から帰ってから数ヶ月が立った。妻は相変わらず、思い出したり思い出さなかったり、曖昧なままの病状が続いた。だが周りの状況はとんでもなく変わってしまった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加