第六章:余命

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今年も桜の季節が終わった。今年は私が入院中だったので、娘家族と行ったそうだ。娘から妻の様子を聞くと、プロポーズの事を少しだけ思い出し、『愛を誓い合ったの』と言ったそうだ。娘が誰とと尋ねると『お父ちゃん』とはっきり言ったそうだ。私は改めて思い知らされた。どんなけ病気が進んでも、小さな『心の記憶』さえあれば、人を愛する気持ちがあれば、誰も何も変わらない。私の方が変わってしまっていた。死に方ばかり考えて、一年をどう生きるのかをあまり考えていなかった。私はもう一度妻と生きていく決心をした。来年の春は妻と一緒にあの桜を見に行きたい。きっと余命を乗り越えていくから。 そして私はその気力で余命1年を乗り切った。
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