喧嘩する程仲が良い、って諺は、大抵現実じゃ当てはまらない

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おっさんの申し出に、響弥は低く喉を鳴らして笑った。 「のぼせんなよ、おっさん。俺もこのガキも、一応学生だぞ? 学生課業を全うしながら暴力団のお手伝いなんざ、面倒でやってらんねえな」 本当に面倒くさそうに、響弥は溜め息を吐く。 日和はともかく、コイツは本当に学生課業を全うしてるのか……? 「そうか……残念じゃのう。それでは、また来る他無いな……」 おっさんは深い声でそう呟くと、踵を返した。 一瞬、警戒して体を強ばらせちまったが、何も仕掛けてくる様子は無い。 本当に帰るらしいな……。 「待って。──ここの息子の梵彩は、本来売られる対象ではなかった事、貴方は知っているの?」 去り行くおっさんの背中に、早川が鋭い口調で質問を投げた。 おっさんは脚を一旦止め、ゆっくりと振り返る。 長い沈黙の後、口を開いたおっさんの表情は曇っていて、辛そうで──。 一瞬、立場も忘れて俺はその顔を見ていた。 「──知っておる。これも、オジキの判断よ……。 坊主をワシらの下へ置いておけば、少なくともあの連中に売り飛ばされる事は無くなる。 何の落ち度も無いモンを手に掛けるなど、納得できる筈がなかろう……」 怒りと、やるせなさが溢れた言葉。 おっさんは余計な事を言ったとばかりに、顔をしかめた。
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