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「アタシ、よく分からないんだ。……ちゃんと、幼なじみって関係から卒業出来たのかなぁ、って」
握り締められた手から伝わる暖かさが、俺の体に浸透していく。
俺は、自分の掌との違いに、内心目を丸くしていた。
全て抱え込もうとしていたのは、こんなにも小さく、儚げな掌だったのか――と。
俺達は、色々な事があり過ぎた。
実感が湧かないのも、無理は無い。
――言われみれば、俺だって決して自信がある訳じゃないな。
「だから……その。これくらい、いいよね?」
俺の頭に、疑問符が浮かんだのと同時に――布団が捲られた。
少しひんやりとした朝の外気に、体が触れる。
と、思った時には、体が布団とは別の暖かさに包まれていた。
こりゃあ……まさか。
「えへへ……この間のお返しっ」
そう言って、捲った布団を再び被せたのは十一年間連れ添った幼なじみ。
そして、昨日から「恋人」になったアイツ。
体全体を使って俺に抱き付いた、長瀬日和の笑顔が、布団の中で咲き誇っていた。
セミロングの茶色の髪、大きくキラキラとしている瞳、愛くるしい笑顔。
幼い頃から、幾度となく見てきたその表情が、今はことさら綺麗に見えた。
なんてこった――まさか、ここまでとは。
先程分かったばかりだが、俺は相当なまでに日和に骨抜きにされているらしい。
理性が、手の届く範囲から全速力で逃げていくぜ。……って、ちょい待て理性!
お前の存在が無けりゃ、まだ十ページも達していないのに濡れ場になるわ!
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