喧嘩する程仲が良い、って諺は、大抵現実じゃ当てはまらない

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「……ではまたな、若人達」 およそヤクザとは思えない清らかな言葉遣いで、おっさんは俺達に別れを告げた。 大柄で屈強な体躯とは言えど、その背中はあまりに無防備に見える。 そう言えば、最初からコイツだけは、あまり今回の取り立てに興味を示していなかった。 まさか、このおっさん──俺達とやり合うつもりなんざ、無いんじゃないのか? 俺がその考えに行き着いた瞬間、脇を誰かが走り抜けていった。 そして、今度こそ立ち去ろうとしたおっさんの腕を、小さな手が掴んだ。 「待って……」 日和は、おっさんの胸までしか無い身体を精一杯使って、全身でおっさんの腕を引き留めた。 おっさんは振り返らない。──だが、歩みは確かに止まっていた。 「ヤクザさんでも、顔が怖くても、おじさんは悪い人じゃないと、アタシは思いますっ。だから、お願い……」 顔は怖くても、って……。 日和以外の、その場にいる全員がそう思っただろう。……それ、結構失礼じゃね? しかし、日和は大いに真剣だ。 好奇心……もとい散漫な注意力が、そのまま形になったようなよく動く大きな瞳も、今は真摯な光を湛えておっさんを見ている。 「おじさんにしか、たぶん頼めないから……。──彩ちゃんを、助けてあげて……」 消え入りそうな、泣き出しそうな声で、日和は小さく言った。 その声と、表情は──アイツが、全てを投げ打ってでも彩を助けようとしている事を、切に物語っていた。
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