喧嘩する程仲が良い、って諺は、大抵現実じゃ当てはまらない

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おっさんは、変わらず目先の闇を見詰め続けていた。 誰も、何も、言わない、動かない。 そんな数秒間が、ゆっくりと流れた。 「決めるのは、オジキだ。ワシはあくまでその補佐役……ワシに坊主を救えはせん」 おっさんは日和の手を払うと、一言も発さずに消えて行った。 日和の手を払う動作は優しく、やはりただの無法者のそれではなかった。 「……腑抜けた野郎だ。あれが、本当に例の凶悪なヤクザの一員だってのか……?」 響弥がバツが悪そうに呟くのを尻目に、俺は駆け出していた。 そして、座り込む日和の元へ辿り着く。 日和の小さな背中からは、深い悲しみと絶望が滲んでいるようだった。 「……日和……」 俺は声を掛けようとして、直ぐに止めた。 伸ばした手は中途半端に空を掴み──何にも触れられない。 日和の肩が小刻みに震えているのを見て、俺は言葉を無くしてしまった。 「早川、日和を頼めるか?」 俺はぶっきらぼうに頼んだのだが、早川は何も言わずに頷いてくれた。 あの気丈な委員長からは信じられない程、弱々しい表情だったが──確かに、早川は俺に応えた。 辛いのは、早川だって同じだ。 ……いや、日に日に傷だらけになっていく彩を見ていた分、俺達より辛いのかもしれないな。 「……無理は、しないでよ」 早川はポツリと呟いて、日和を連れて去って行った。 ……すまない。二人とも……。 気付いてやれなかった俺が、どうかしていたんだ。 お前らは、悪くないさ……。
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