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「マリーがキミに会いたいって言うから連れてきたんだけど、どうやらお邪魔だったみたいだねえ」
腰に腕が巻きついて、簡単に体を持ち上げられる。
私の体を持ち上げたのはもちろんギースじゃなくて、ゴウルで。
ギースの姿も、女の人の姿も見たくなくて、ゴウルの肩に顔を押し付けた。
あんなに会いたかったのに、会いたくて堪らなかったのに……顔をあげればすぐそこにいるのに、見たくなかった。
見たら今以上に傷つきそうで……恐かった。
「ほいほ~い、質問!!その人間はなぁにぃ?」
甘ったるい声に心は追い詰められ
「連れてくるなと言ったろ」
咎める声に心は切り裂かれた。
私は此処に来たら行けなかったのね。
きっと邪魔をされたくなかったのね。
きっとギースは、ちっぽけな私より大事な人ができたんだ……。
「さっさと帰ってよぉ」
それは可愛い声の持ち主で。
塞いでいない耳からは嫌でも聞こえてくる。
「詳しい理由は聞いていなかったが、キミがそうするなら……この子はもらおうかな」
背中を撫でる手が今は心地よくて、言い返さないギースにまた傷ついて、ドアの閉まる音が聞こえた。
揺れる腕のなかで、誰かが私の名前を呼んだ気がした。
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