さよなら平穏な日々

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「ギース様、どうぞ」 「ありがと」 切り分けたアップルパイを小皿に移し、フォークを添えて僕の前に置く。 フォークを手に取りアップルパイを口に頬張れば、生地はサクサク、中はしっとり、香ばしく、甘い味が口いっぱいに広がった。 幸せだな。 「ドールの作るお菓子はおいしいね」 ドールが淹れる紅茶、焼いたお菓子、作る料理はどれも僕を幸せな気持ちにさせる。 「いつも、ありがとう」 「私には勿体無いお言葉です」 ドールは感情のこもらない声でそう言うと、僕にペコリと頭を下げた。 「ドールも一緒に食べよ?」 僕一人で食べるのは寂しく、頭を上げたドールを誘えばドールは頭を横に振る。 「私はギース様に仕える僕です。高貴なギース様と一緒に食事を取る資格など私にはありません」 「……」 そんな風に断られたら何も言えなくなる。 誰かと楽しく会話しながら食事したいな。
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