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少女は顔を俯かせ、ボソボソと何かを言っている。
あまりにも小さいその声を聞き取ることはできない。
「どうかした?」
少女のその様子が気になって声をかければ、少女は勢いよく顔を上げた。
恐怖の色は残しつつも僕を真っ直ぐに見てくる。
「……それ、本当?」
「うん、本当。僕は平和で穏やかな時間が好きなんだ」
「……噂と全然違うじゃない」
ポツリと呟いたその言葉は聞き逃さなかった。
町の住人が話す、僕の噂。
そんなの知ってるよ。
残虐で、森に入り込んだ人間を生きたまま切り裂き、血を啜り肉を食らう『悪魔』って噂してるぐらい。
悲しいけど、その噂を否定することもどうすることもできない。
ずっと昔から語り継がれてきた噂だから。
時代と共に噂の内容も僅かに変化したりするけど、残虐ってとこは変わらない。
噂を信じて、誰も僕のことなんて見てくれない。
きっとこの少女も僕の言葉を信じてくれないだろうな。
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