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ノックしようとしたまま動きを止めれば、暴れる心臓の音がやけにハッキリと耳に届く。
女の声は間違いなく「ギース」と名前を呼び、うっとりとした声で「好き」と言った。
聞き間違いじゃなくて……そこにギースがいるのか分からないのに……どうしていいか分からない。
「……は、……好きだ」
え?
体が凍りつき、頭が真っ白になった。
だって
だって
さっき聞こえた声は、間違いなく
ギースの声だったから。
このドアの向こうにギースはいる。
けれど、ギースは……「好きだ」と言った。
その言葉を聞いてしまった。
その言葉は、その言葉を向けられたのは、ドアの向こうにいる声の持ち主である……女で……。
向けられたのは私じゃなくて……。
血の気が引き、指先が震え、立っていられないほどに足から力が抜けた。
頬を何か温かいものが伝い、それは床に落ちて染みをつくる。
会いたかった。
伝えたかった。
なのに……なのに……、聞きたかった声と言葉は私じゃない相手に向けられていて、心が酷く痛くて……。
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