唯一の存在

7/37
6428人が本棚に入れています
本棚に追加
/850ページ
マリーは返事を返してくれず、ただ俯いていて。 次から次に零れ落ちる雫が床に落ちていく。 雫が落ちる度に、胸がジクジクと痛んだ。 その小さく儚い体を抱き締めたいのに、マリーを泣かしているのはきっと僕だから、その資格がなくてただ見ているだけしかできない。 『連れてくるなと言ったろ』 何故マリーを連れてきたんだ? 連れて来なかったらマリーは悲しまずにすんだのに。 僕が傷つけずにすんだのに。 ゴウルの唇が緩く弧を描き、その余裕のある笑みが癪でたまらない。 『詳しい理由は聞いていなかったが、キミがそうするなら……この子はもらおうかな』 マリーを抱き上げたゴウルの挑むような言葉に、痛む心は一気にどす黒い闇に覆われた。 マリーを マリーを貴様なんかにやらねえ!! でも……でも…… 吠える前にマリーがゴウルの肩に額をつけるのを見て、縋るようなその姿を見て、声にならなかった。 マリーが今頼っているのは 甘えているのは 僕じゃない。 僕は、マリーを傷つけただけ。
/850ページ

最初のコメントを投稿しよう!