2人が本棚に入れています
本棚に追加
少年は焦点が合っていない目で遠くを見ていた。
切れた唇の傷が化膿してピンク色の腫れ物ができている。
背負っているバックパックは変わった形だった。
黒の革製で、L字型をした、平べったいバックパックだ。
林田は少年の前にココアの入ったコップを差し出した。
少年の視線が彼方の雲から紙コップを持つ林田の手と腕と肩を伝って、林田の顔で止まった。
少年は林田からココアを受け取った。
横に座っていいか。
林田は聞いた。少年は林田の顔をじっと見ていたが、やがて頷いた。
「そのバックパックだけどさ、何が入ってるんだ。」
林田がそう聞くと、少年はしたをみながら、何かを呟いた。
小さな声で聞き取れなかった。
え?何?聞こえねぇよ。お前もう少し、もう少しでいいから大きな声で話せよ。
林田はそう言って、ココアの入った紙コップを小刻みに震わせながら笑い始めた。
何か、俺、おかしい事言いましたか。
少年が林田に言った。低くてかすれた声だった。
だってお前、全然聞こえない小さな声で言うんだもん。何か照れてるみてぇじゃねぇか。
林田はしばらく笑い続けた。
すみませんでした。
と、少年は謝った。
謝ることは無い。と林田は言って、
それよりさ、そのバックパックには、と言いかけると、それを遮るようにして少年ははっきりとした口調で答えた。
最初のコメントを投稿しよう!