prologue2

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パク・ヨンスが三号庁舎に来いという命令を受けたのは昨夜遅くだ。 夜の10時過ぎに伝えられる命令にはろくなものがない。 しかもその命令を伝えてきたのは文化省のチャン・ジンミョンだった。 たしかに、チャン・ジンミョンは大学の同級生だが、対南工作を担当する労働党書記局統一戦線部がはいっている三号庁舎への出頭命令が、文化省福相から下達されるのはあまり例がない。 通例ではないことにたいして警戒を怠ってはいけなかった。 それは、パク・ヨンスが30年に及ぶ苛烈な政治の場で学んだ事だ。 彼は16年にわたり、日本語を学び、4年前から語学教官として教える側に回っている。 「久しぶりだが元気にやっているようだね」 部屋に入ってきて、チャン・ジンミョンはそういうことを言ったが、眼鏡の奥は笑っていなかった。 実際に会うのはほぼ10年ぶりだ。 どんな時でも警戒心を失わない狡猾な男だったが、これほど緊張しているのは初めてで、それがこれほど緊張しているのを見るのは初めてで、それがパク・ヨンスに違和感を抱かせた。 チャン・ジンミョンは部屋に入ってくると、ひっきりなしに汗を拭いた。 いくら太っているといっても、汗をかくような室温ではなかった。
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