prologue2

8/17
前へ
/44ページ
次へ
「明日午前10時、三号庁舎に来庁せよという伝言を預かってきた。来庁命令を発したのは誰かという事だが、明日三号庁舎に行けばわかる、とわたしはそれだけを聞いてきた。組織指導部の車が迎えにくる。その他詳細は、聞いていない。」 朝、ヒバリが鳴いているというのに空気はまだ冷たかった。 玄関から出たパク・ヨンスは見送りの秘書官に促されて、裏地にキルティングを施したオーバーを持った。 空模様が怪しく気温がさがることが予想されたからだ。 門衛が銃を掲げて敬礼した。 迎えの車は約束の時間の30分前に玄関の車寄せに入ってきた。 一般の車は大学構内に入ることは出来ない。 車はドイツ車でナンバープレートには2・16という特別な数字が入っている。2・16は将軍同志の誕生日だ。つまりこの車は将軍同志から贈呈されたもので、三号庁舎に勤務する誰か高官の私物だということを意味する。 パク先生お迎えに参りました。ドイツ車に同乗していた顔なじみのない秘書官がドアを開けながらそう言った。 パク・ヨンスは革張りのシートに乗り込み、まだ30代後半だと思われる若い秘書官は前方の座席に座った。 パク・ヨンスは腕組みをして目を閉じた。 朝米、南朝鮮との雪解けも囁かれているこの時期に、統一戦線部が日本語研究者に何の用があるのかという懸念は深まるばかりであった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加