prologue2

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大同江ぞいの広い遊歩道は人影がまばらだった。 2・16ナンバーのドイツ車は時速100キロで走っている。 車中でうとうとしかけていたパク・ヨンスは自分はいまだ革命を継続中の国家の一員で、しかも向かっているのは三号庁舎だ。精神を引き締め、肝を据えて事態に対処しなくてはならない。と自らに言い聞かせた。 市の中心部に入り、ドイツ車はスピードを緩めた。 交通整理をする安全員や重要地域に立つ歩哨がパク・ヨンスの車に向かって敬礼した。 車内では会話がなかった。秘書官はずっと黙っていたし、呼び出される事情もわからないのにパク・ヨンスの方から話しかけるわけにはいかなかった。 信号で止まった時に、後部座席の方を振り向いた秘書官がおずおずと口を開いた。 パク先生、1つだけ質問をしてよろしいでしょうか。 いかにも初々しい口調で、パク・ヨンスは秘書官に好感を持った。 何だね。言ってごらんなさい。 質問を許すと、秘書官は思いがけない事を聞いてきた。 麒麟という名の日本のビールを飲んだ事があるかと言うのだ。 何度かあるとパク・ヨンスは答え、何故そんな事を聞くのかと、笑顔を見せながら訊ねた。 「私は、一所懸命努力をして、党に認められて、いつの日か玉流館で麒麟という名の日本のビールを飲むのが夢なんです。退廃的だと怒られるかも知れませんが」
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