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パールにとって怖い人間というのは、熊の様な体格をした大男の事だった。
「とにかく…今日は失礼の無いようにするんだよ?」
「はい…分かりました」
視察時間については通達が来ていなかったが、いくら24時間営業のファミレスとはいえ、過去の例見ても真夜中に視察が入るとは考えにくい。
「詳しくは分からないけどね…前回の視察の次の日に店長が変わって、バイトが3人辞めたんだよ」
「それって…」
「そう…オーナーがやったんだよ」
グループにとってファミレスの一店舗など、大木の枝葉に過ぎない。邪魔と思えばさっさと切り落とすだけだ。
今パールが働いているファミレスこそが、正に枝葉だった。
ー午前11時ー
「はい、はい、畏まりました。お待ち申し上げております」
店長は電話の向こうの相手にペコペコと頭を下げていた。
「三村さん!12時に北村様がいらっしゃる!もう一度店内をチェックだ!」
「はい、分かりました!」
従業員を総動員して、店の入口からテーブルの上下、トイレに到るまで隈なくチェックが行われた。
だがオーナーである北村の本当の目的は別にあった。
そして午前12時ー
ーカランーカランー
いつもの様にドアの開くベルの音がする。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは…」
入って来たのは、スーツに身を固めた細身で長身の男だった。短く纏められた黒い髪が実に爽やかな印象を与える。
「みんな、来たよ!」
三村が控室の女性従業員に集合を掛ける。
「あれが北村さんですか?」
パールはドアの隙間からそっと男を観察した。
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