拾ったモノ

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***     「ただいまー」 誰もいない玄関に向かってそう言いながら濡れたスニーカーを脱いだ。 ――両親が交通事故で他界したのはもう五年も前のこと。 悲しくて悲しくて、心が折れてしまいそうだった。 残ったのは、唯一の肉親となった十一歳年上の兄と、両親が残してくれたこの家。 お兄ちゃんは私のためにと、がむしゃらに働いてくれている。 そんな妹バカ、……心優しい兄と二人でこの思い出の詰まった家で暮らしていた。 でも今は海外出張でアメリカに行っているから私一人だけ。 一人で過ごすには広すぎるこの空間に慣れたのは、いつからだっけ。 誰もいない家に一人で帰るのは、さみしかった。 だけど今日は違った。 ずっと抱き抱えていた猫を床にそっと降ろし、近くにあったタオルで濡れた身体を拭いてあげた。 私がそうしている間、猫はずっと私を見ていた。 それにしても…… 「変わった眼の色してるなあ……」 猫の瞳は左右違う色をしていた。 右は深い森のような緑色、左は空を写し取ったかのような澄んだ水色。 すごく、きれい。 空と森の美しいコントラストに、思わず見入ってしまう。 「オッドアイ、か」 そう呟いて猫の身体を拭き続けた。
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