前兆か日常か。

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家族は三人と三匹。 両親とあたし。 犬が二匹、猫が一匹。  父は犬煩悩でどこに行っても娘より犬が可愛いと言っていた。  娘を可愛いと言うのは難しかっただろう。もうあたしだって23才になっていた。  でもあたしは一人っ子で甘やかされたせいか、23才の割には童顔で子どもっぽく、特に母にはべったりだった。 「パパ」 「ママ」  あたしは幼い頃からの癖で今でもそう呼んでいて、多分これからも直らない。  2008年、夏。  前から酒好きだった父が、あからさまに酒の量を増やしたのはその頃。  原因は分からない。  躁鬱状態で、躁の時にはやたらに高い絵や美術品を買って来たりしたし、鬱の時は眠れないからと睡眠薬とアルコールを一緒に取って、ひどくあたしを不安にさせた。  毎日二日酔い状態で、焦点が合わずにフラついていることなどしょっちゅうだ。  しかし、酔って誰かに迷惑をかけるような人ではなかった。  父は長男で、責任感が強い人だ。  その頃、父方の祖父はホームにおり、長年に渡るパーキンソン病ですでにほぼ寝たきりの状態だった。  会いに行っても、あたしの名前はもう分からない。  息子である父の名前も覚えているかは怪しかったが、父がそれを穏やかに受け入れているのか、悲しんでいたのか、あたしには分からなかった。
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