前兆か日常か。

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 八月のある日、家族三人で旅行に行こうということになった。  場所は日光。  電車で数時間。夏の日光は暑かった。  観光地を巡り、竜頭の滝を見て、一緒に珈琲を飲んだ。  雨の中を、あたしは父と一本の傘に入って並んで歩き、食事は向かい合ってした。  あたしはその頃、実家を出て家族と離れて暮らし始めた時だったから、父と最後に一緒に食事をしたのは、それが最後になる。  何を話したかよく覚えていない。  ただ久しぶりの家族旅行で、あたしはいつもよりはしゃぎ、父もよく笑っていたことだけは覚えている。  まさかそれから一ヶ月も経たないうちに、父を失ってしまうなんて思っても見なかった。
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