2237人が本棚に入れています
本棚に追加
電車を待っている間に、あたしはずいぶん落ち着きを取り戻していた。
(騒いでも事態は変わらない)
それは少し考えれば分かることだ。
それに泣いてしまったら、それは父の死を認めることになる。事実確認が出来てもいないのに、泣き喚いたりしたくはなかった。
電車の中で、あたしは携帯電話を出した。ハルちゃんに連絡をしなくてはならない。
ハルちゃんというのは、あたしの父の弟に当たる人だ。つまり、おじさん。おじさんと言っても独身で、若くて、格好いい。そして、頼りになる。
電話をすると、ハルちゃんはすぐに出た。
「K、どうしたの」
「ママから電話があったの。パパが事故にあって、亡くなったって言ってた」
「……」
電話の向こうで、ハルちゃんが息を飲むのが分かった。
それでも、あたしは冷静な声を装った。
「ママは確認しに病院行くって。あたしは家で連絡待ってる」
「どこの病院?」
真っ先にそう聞いたハルちゃんは、やっぱり頼りになるとそう思った。
「まだ聞いてないけど、メールで聞くよ。ハルちゃんも病院行く?」
「行くよ。ママの携帯の連絡先教えて」
「うん。メールで送る。あと、まだ確認出来てないから、おばあちゃんには言うなって」
「うん、そうだね。分かった」
ハルちゃんはそう言って少し沈黙を作り、不意に優しい声で
「K、大丈夫か」
と言った。
その一言で、また涙がぽろぽろと溢れて来た。
とにかく怖くて、怖くて、仕方なかったのだ。父を失うかも知れないと思うと、寂しくて、怖くて、不安で仕方なかった。それでも
「うん、大丈夫。平気」
と答えると
「女の子で一人だから、戸締りしっかりな」
と注意された。
「大丈夫。わんこが二匹もいるし」
「何か分かったら連絡するから」
その言葉に、あたしは電話を握り締めたまま、無言で何度も「うんうん」というように頷いた。声はもう出てこない。
泣いているのがバレてしまう。
(まだ泣く時じゃない)
電話を切って、少しするとすぐに涙は収まった。自分で気持ちを落ち着かせようと努力していたし、頭が働かなかったせいもある。
最初のコメントを投稿しよう!