2009年9月10日

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 電車を待っている間に、あたしはずいぶん落ち着きを取り戻していた。 (騒いでも事態は変わらない)  それは少し考えれば分かることだ。  それに泣いてしまったら、それは父の死を認めることになる。事実確認が出来てもいないのに、泣き喚いたりしたくはなかった。  電車の中で、あたしは携帯電話を出した。ハルちゃんに連絡をしなくてはならない。  ハルちゃんというのは、あたしの父の弟に当たる人だ。つまり、おじさん。おじさんと言っても独身で、若くて、格好いい。そして、頼りになる。  電話をすると、ハルちゃんはすぐに出た。 「K、どうしたの」 「ママから電話があったの。パパが事故にあって、亡くなったって言ってた」 「……」  電話の向こうで、ハルちゃんが息を飲むのが分かった。  それでも、あたしは冷静な声を装った。 「ママは確認しに病院行くって。あたしは家で連絡待ってる」 「どこの病院?」  真っ先にそう聞いたハルちゃんは、やっぱり頼りになるとそう思った。 「まだ聞いてないけど、メールで聞くよ。ハルちゃんも病院行く?」 「行くよ。ママの携帯の連絡先教えて」 「うん。メールで送る。あと、まだ確認出来てないから、おばあちゃんには言うなって」 「うん、そうだね。分かった」  ハルちゃんはそう言って少し沈黙を作り、不意に優しい声で 「K、大丈夫か」 と言った。  その一言で、また涙がぽろぽろと溢れて来た。  とにかく怖くて、怖くて、仕方なかったのだ。父を失うかも知れないと思うと、寂しくて、怖くて、不安で仕方なかった。それでも 「うん、大丈夫。平気」 と答えると 「女の子で一人だから、戸締りしっかりな」 と注意された。 「大丈夫。わんこが二匹もいるし」 「何か分かったら連絡するから」  その言葉に、あたしは電話を握り締めたまま、無言で何度も「うんうん」というように頷いた。声はもう出てこない。  泣いているのがバレてしまう。 (まだ泣く時じゃない)  電話を切って、少しするとすぐに涙は収まった。自分で気持ちを落ち着かせようと努力していたし、頭が働かなかったせいもある。
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