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 旅人のわりには荷物もなく、身軽すぎる。  身につけていたものは服以外に何もなかった。  でも追い剥ぎに全てを取られたのだとしたら、辻褄は合う。  合うけれど何かしっくりこないものを私は感じていた。 「そう。で、名前は?」 「秘密」  悪びれもせず彼はニヤリと笑った。  完全に舐められている。 「じゃあ名前が無いと不便だから、私が付けてやる」  私の意外な申し出に、彼は目を見開いた。  何かを言いかけたが、私は言葉を遮り告げた。 「君は、クロ、だ」 「んな、安易な」  クロは呆れたような声を出した。 「それって俺の髪や瞳が黒いから、だよな? ふざけてる」 「ふざけているのは君だ。名前も名乗らないような人間に、そんな文句をいう権利はない」  私は断言した。  目を閉じて何かを考えていた彼は、渋々と小さな声で、わかったよ、と呟いた。
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