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「リシンシさん、お腹空いた」
「下に行って食べてきなさい」
「ん~」
奇妙な生活も一週間が過ぎる頃には、前からこれが当たり前だったかのように思えてくるから不思議だ。
クロの怪我は大分良くなり、私の書斎には決して立ち入らないことを約束し、最近では部屋の中を彷徨くまでになっていた。
けれど部屋の外には一人では出ようとしない。
食事は常に私と共に食堂へ行くか、私が来客で共に行けない時は食事を摂らない徹底ぶりだった。
彼は彼なりに何かを警戒しているらしい。
この屋敷には、そんな輩はいないのに。
彼は日がな一日、本を読んだり、外を眺めたり、たまに上手ではない絵を描いてみたり、大人しくしている。
人畜無害。この一言に尽きる。
私の仕事の邪魔もしないし、まるで空気。
「お腹、空いた」
クロはそう言うとソファに倒れ込む。
一人では部屋から出ない頑なな彼に意地悪をしているわけではないが、今日は仕事が立て込んでおり、私の夕食はかなり遅くなる予定だ。
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