―異形― 九歳の僕

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  新年を迎え 幾日も経たないうちに 僕の[御披露目の日]がやってくる。 ご宗家はじめ 流派一門の全てが顔を揃え執り行われる。 《苫篠公彬という人間が[苫篠]から能界にデビューさせて頂きます。 お見知りおき頂くと共に 今後 宜しくお願い申し上げます。》 といった意味合いがある重要な行事だ。 今年は僕ともう一人が舞うことになっていた。 一般的な言い方をしたら[同期]になるのかな。 御披露目が近づくにつれて家の中もピリピリとしてくる。 兄は数年前に御披露目を済ませているが、こんなにピリピリしていなかったように思う。 やはり 僕の体の不都合が影響しているのかな。 祖父と父が常に二人でお稽古をつけてくれるが いつになったら完成するのか気が遠くなるほどに駄目出しされるんだ。 思うようにお稽古が進まず不安になる。 一人でさらえをしても 何をやっても… 上手く出来ないのではないかと心配になる。 悩んだ時に言葉をかけてくる人間が今は誰もいない。 兄は あの日以来僕に必要以上に接触してくれなくなっていたし、 お弟子さんたちも雰囲気から何かを察したのだろう。 [さわらぬ神になんとやら] あえて近づいて来てくれる人はいなくなっていた。
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