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畳から生える手
ここは、都心から私鉄を乗り継ぎ、1時間半くらいの県境にある閑静な住宅地の一角。
質素ながらも庭つきの平屋住宅に父娘が暮らしていました。
母親は娘を出産した後、腹膜炎を誘発し、産後二週間後に息を引き取ったと娘は聞かされています。
父娘の2人きりの生活ですが、娘は小学校五年生で大体の家事もこなし、生活そのものには支障がありません。
父親は地方公務員をしており、経済的にも切羽詰まったものが感じられず、近所の評判も決して悪いものではありませんでした。
娘は早い時期から自分の部屋を与えられており、襖一枚隔てた和室で父親が寝起きしています。
父親は不眠症の気があり、時々、就寝中にうなされる事もあるので医者から導眠剤を処方してもらっていました。
その日は娘が予想以上に宿題が長引き、父親より一時間程遅く布団に入りました。
夜中の2時近い時間に、父親の叫びに近いくらいの唸り声を聞きつけ、父親を起こそうとゆっくりと襖に手をかけました。
恐々、襖を拳一つ分開け、父親の方を見ると、何やら薄暗い中にも父親の枕元に白っぽい棒のようなものが二本立っています。
目を凝らしてよく見ると棒ではなく人間の手です。
棒の先端に指があり、枕元のすぐ上の畳の部分から生え出て父親の首に掴みかかろうとしているように見えます。
娘は身の毛がよだつ程の恐怖を感じつつ、同時に悪いものを見たような気持ちで襖を閉め、朝までまんじりともしないまま布団の中にいました。
翌朝、朝食をとりながら父親にその事を話したものか躊躇われたのですが、昨夜の一件を伝えたのです。
するとみるみる、父親の表情が変わっていき、馬鹿な事を言うな!人にも決して言ってはいかん! と激怒しています。
それからも、父親は度々うなされる事があるようでしたが、娘は二度と襖を開ける事はありませんでした。
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