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「でも本当に犯行は行われるんすかね?」
今居はカメラのピントを合わせながら言った。
「テレビ局にあるメッセージが投稿されて、流してみると犯罪予告。
普通悪ふざけか、嫌がらせだと考えますが、みせしめで予告された江藤議員が新宿の駅前で演説中に殺されてしまった」
「警察はすぐにそのメッセージを没収。
中身はすでにテレビを媒介に全国民に広がった」
君島が手帳を胸ポケットから取り出して、パラパラめくりながら口を出した。
「内容は一週間以内にリストに載った50人の殺害予告だ。
ご丁寧に時刻までしっかりと記入されている」
「でも不思議なことに議員の予告は最初の江藤議員だけだったんですよね?」
「だが、リストの人物に共通点がないわけではないがな・・・」
今居は驚いた顔をした。
おかげでカメラのピントが少しズレてしまったようだ。
声を荒げながら今居が言った。
「初耳っすよ」
「言ってないからな。
さあ1分切ったぞ」
周りが一斉に静かになった。
今居と君島を襲ったのは、体格のよい男が前に乗り出したために、押し潰されそうになる圧迫感と男たちの汗くさい臭いだった。
辺りは騒然としている。
誰もが思った。
犯行は実行されないのではないかと。
大久保利通が殺害された紀尾井坂では石川県士族が怪文書を送り付けた。
しかしその文章は暗殺の後に行われたという。
つまりだ。
怪文書を先に出してしまうとこのご時世。
相当な警備が付くこととなる。
一般人でも相当な警備が予想されるのに、政治家の息子とは・・・
月の影が少し濃くなったように思える。
時間もあっという間に過ぎてしまった。
君島は自分の右手首にある腕時計を見た。
長針、短針はほぼ数字に近く微動だにしない。
ただ動いているのは今にも壊れそうな秒針だけであった。
そして・・・
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