第 一 夜 ~ 出逢い誘う桃の香 ~

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  これはおかしい。 顔を洗ってからたいして時間が経っていないとはいえ、温かくなるどころか逆に冷たくなるなんて道理はないと思う。 「むう……」 唸って、首を捻る。 小皿を洗うのを中断してお湯に切り替えてみても、ボイラーの機動音はすれど、手を包む気体は湯気にならず、いつまでも冷気だ。 「なんなんだよ……冬だってここまでならないぞ」 ボイラーが故障か、それとも黒銀宅の台所にだけ氷河期が到来したのか。 ……どのような理由であれ、夏休みな入ってまずやらなばならない事に、"修理"という項目が増えた事は間違いなさそうだった。 「仕方ない、か」 これから学校がある学生の身分としては、今出来る事はないっぽい。 ならば最後のコップは濯ぐだけに留め、自分の部屋に学生鞄取りに行って、速やかに登校を開始してしまおう。  
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