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ぴしゃん、と玄関の扉を閉めて鍵をかける。 この施錠という行為は、空間を塞ぐものだと思う。
一人暮らしという事実の元に生まれた自分だけの空気が、不在中に外へと漏れ出さないよう、封をするのだ。
こんな手の平に乗る程小さな鉄の塊が、俺にとってはとても重要な物だった。
「さて、と――」
扉を揺らして、鍵がちゃんとかかっているか確認し、地面に埋まった石を渡って門の外へ。
家の前の路上を照らす陽射しは熱い程で、それは未だに両手に残っていた、氷河期到来の予感を溶かしてくれた。
「いいー朝だなあー」
昨日の夜は雨だった事もあってか、手をかざして見上げた空は、雲一つない青空だ。
耳には雀の囀りが聞こえていて、思い切り深呼吸をすれば、この胸いっぱいに雨の残り香が――――
「――うっ……」
どくん、と。
突然一際大きく、心臓が跳ねた。
「な、んだ?」
それは空気中に漂う毒を一気に吸い込んだ事によって一瞬の間心臓が止まり、それを補おうとしたような感覚。
「ぐっ――う……」
いきなりの事に、自分の胸は痛みを訴えている。
けれど両手は胸を手当てする事なく、勝手に鼻を覆っていた。
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