第 一 夜 ~ 出逢い誘う桃の香 ~

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  鏡と格闘を再開。 ぱぱっと寝癖を直してしまって、再び廊下へ出る。 すると、ほのかに暖かな廊下の窓から陽の光が射し込んでいて、埃が舞っているのが見て取れた。 「そういや最近、廊下は掃除してないな……」 だが、そんな暇はない。 掃除は今日帰って来てからやる事にして、今は飯だ、飯。 「おはよう」 朝の挨拶をしながら居間へ。 「――――」 けれど、応えてくれる人はいない。 トントン、と包丁がまな板を叩く音も、食欲をそそる朝餉の匂いもしない。 ――唯一の肉親であった祖母が亡くなって、もう二年。 その二年間、朝の俺を迎えるのは、自分の生活の匂いだけだった。 「……それだもの、独り言が多くなるよな」 そんな自分自身に向けた独り言に、うんうんと頷いて、立ち止まっていた身体を動かす。 居間を横断して、台所へ。 さて、今日の朝はなににしようか――  
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