第 一 夜 ~ 出逢い誘う桃の香 ~

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  「あっ」 ――と。 エプロンを手に取ったところでようやく気付いた。 「ああー……」 包丁立ての前に、ラップがかけられた炒飯が鎮座している。 「……しまった」 すっかり忘れていた。 昨日の夜は、今日の朝に楽をする為、夜朝兼用として多めに作っていたのだ。 しかも、冷蔵庫の奥にはポテトサラダの余りもあったはず。 あれもそろそろ食べないとヤバイ。 「……やっちまった」 全くその通りで、これでは朝飯を支度する必要はまるでない。 つまり、登校まで時間が余ってしまう。 これなら廊下を掃いて、雑巾がけをしてもおつりが来る。 本当に、やっちまった。 「まあ、しゃあない、か」 けれど、ここまで来ては今更だ。 洗面所でバケツに水を汲んで、廊下を往復して汗をかくのも、朝っぱらからだとどうかと思うし。 どうせ明日から夏休み。 掃除する時間なんて、それこそ家中隅から隅までやる程出来る。 ならばおとなしく炒飯とポテトサラダを食って、ついでに冷えた麦茶も飲んで、生徒会の人間として早めの登校をする事にしよう。  
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