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「あ、あ、えっと…と、友達待ってたんすけど…もう行ってしまったのかなーッ?あはははは」
咄嗟に嘘をついたのは良いものの、動揺を隠しきれず棒読みになる英治。
俺…ちゃんと嘘つけてるか!?
キョロキョロと明らかに挙動不審な態度をとる英治を見て、目の前にいる先輩はにこやかに笑った。
「そうですか。ビックリさせてしまったみたいですみません。初めまして、私は風紀委員の大内 十宮(オオウチ トミヤ)です。もう少しで始まりますからはやく体育館へ戻ってくださいね」
十宮と名乗る先輩は、焦る英治に優しく声をかけ、終始爽やかな笑顔を向ける。
そして落ち着かせるように、ゆっくりと丁寧に喋っていた。
せ、先輩なのに敬語使う奴とか初めてみた・・・しかも一人称私って・・・
なんかずいぶん礼儀正しいな・・・
うーん、なれねぇなこういうやつ・・・
英治はなんだか気まずさを感じながらも、苦笑いをして頭をかいた。
「あ、はい。あざっす…」
挨拶を終えた十宮は、軽く会釈をするとトイレのドアに手を伸ばした。
それはっ!!!!!!
「あ゙ーーーーーッ!!」
「っ!?」
突然大きな声を張り上げた英治に、十宮は小さく声を漏らすと、ビックリして目を丸くする。
一方英治は自分のしたことに戸惑いながらも、喋ってしまったからには仕方がないとすぐに次の言葉を発した。
「と、トイレ今入らないほうが、い、良いと思いますよ…今中でキバってるやついるみたいなんで・・・あはははは・・・は・・・で、では!!!俺はこれで!!!」
そう言い残すと、意味不明な敬礼をして体育館へと猛スピードで走って行った。
十宮は短い間に起こった慌ただしい光景に瞬きをする暇もなかった。そしてしばらくポカンとした後、全てのことを把握すると、口に手をあてて小さな笑みを浮かべた。
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