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7月下旬、入院生活をしてからしばらく経った日のこと。
「秋良!!」
個室のドアを突然開ける人がいた。
「八嶋・・・?」
「明日は俺大会なんだよ!見に来てくれるか?」
半袖の白いティシャツに汗の水滴が流れる。
「いかない。」
きっぱりと顔を見て言った。
「えっ・・・」
嬉しそうな顔が一瞬曇った。
「なんでたよ。応援くらいしに来てくれても・・・」するとまた誰かが入ってきた。
「やぁじぃまぁ~その辺にしとけ。」
寺島が笑って八嶋の腕を引っ張る。八嶋は持っていたエナメルから一本のラケットを取り出した。
今までに見たこともないような残念そうな顔をして
「このラケットは俺のやつだ。お前が来なかったら俺は試合が出来ないからな!?絶対来いよ!!!」
そういってラケットをベッドの横のテーブルの上に置き出ていった。
「ちょっと!?」
寺島も慌てて八嶋を呼ぶ。「アイツ・・・」
寺島は頭の後ろを掻きながら飽きれた表情をした。
「馬鹿だな。」
秋良が笑った。本当の笑顔だった。
「そうだな。小学校ん時からアイツはアホで馬鹿だったゎ。」
寺島も一緒になって笑った。
「でもホントにいい奴なんだよな。アイツさぁ締め刈り後の会長杯に頭下げて申し込んでお前に来てもらいたいってそんで毎日練習してんだ。ほんのちょっとでいい、お願いだから来てほしいんだ。」
寺島は頭を下げた。
「お医者さんの許可が降りたら行く。」
「えっ・・・」
もう言わなかった。
「ありがとう。ホントありがとな!!!!」
寺島はもう一回頭を下げて「じゃっ。」と言って出ていった。
1人になった後テーブルの上のラケットを見た。
手に持った。
「重っ・・・」
赤と黒のラバーは綺麗に光っていた。
「明日は頑張れよ・・・」ラケットに向かって笑った。
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