1399人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
「あれ…」
何気無い平日の昼下がり。
俺は監視下(神楽)から逃げるように、校内をぐるぐる散歩していた。
夏も近いこの季節に、中間服はちょうどよかったり、少し暑かったりと面倒臭い。だからといって夏服や冬服だとそれは余計に肌寒く感じたり暑苦しく感じたりするんだろうが。
たどり着いた先はいつかの中庭だった。
草が生い茂る、一歩間違えれば獣道。
下手なところばかりに金をかけるくせして、こういうあまり人目につかないところには金を一切使わないらしいなんともケチな学園だ。
整備くらいしてほしい。
しかしこういう人が寄り付かない場所だからこそ、彼はここを安らぎの場として使っているんだろうけど。
「…また珍しい」
中庭の中央にぽつりと設置されているベンチ。そこの回りだけは草が避けるように綺麗に整えられている。
誰がそういう風にしたのかなんて、愚問中の愚問だ。
「カナタせんぱーい」
小さく、その名前を呼んでみる。
いくら暖かくなったとはいえ、こんなところに身一つで寝ていたら風邪を引いてしまうだろう。
そう思い、声をかけた。
流石というかなんというか、カナタ先輩はその一言だけで目を覚ます。
「…よぉ、寛人」
「今はハクト、ですよ。先輩」
「ははっ、だったな。つーかなんでハクト?」
「あー…なんかいい名前が思い付かなくて、寛人の寛ってはくとも読めるらしいんですよね。それでハクト。当て字で博人」
「単純だな」
「今更でしょう」
「確かに」
ふっと笑みを浮かべたその人は、体を起こすとそのまま横にずれ、隣をぽんぽんと叩いた。
それは隣に座らないかという誘いのもので。
「…失礼しまーす」
「ん」
先輩の誘いを無下にできないという気持ちもあったし、久々にこの人とゆっくり話したいという気持ちもあり、俺はおとなしくそれに従った。満足気な表情のカナタ先輩に頭を撫でられる。
一体この人は俺をいくつだと思っているんだろうか。
完璧子供扱いされていると分かっているし、実質自分がこの人より大人かと考えると答えは言わずもがなで、今更怒る気にもなれない。
それにカナタ先輩は最初からこうだった。
まるで俺を弟かもしくはそれに似たようなもののように扱う。
それを甘受している俺も俺で、カナタ先輩を何度か兄みたいにもしくはそれに似たようなもののように見ているから文句は言えない。
「で?どうしてここに」
「…ストーカーのオニーチャンから逃げてきました」
最初のコメントを投稿しよう!