ハルヒロ放浪記

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見つかった…っ。 そう血の気が引く俺の気も知らず、それはそれは嬉しそうに再会の言葉を述べるサナに、戸惑いを隠せない。 「ひーちゃん!ひーちゃん!会いたかった!ほんとにどこに行ったのかと思って俺探しまくった!」 「サナ…なんで…」 「俺の情報舐めないでよ!ひーちゃんに関しては随一!」 会えて嬉しい! そんな感情が向き合ったサナから滲み出ている。その笑顔に嘘はなく、邪な考えや企みはなさそうで、それでも久しぶりに会った親族に俺の身体は強ばるばかり。感じる違和感は、その言葉の訛りだけ。 自然と桃を思い出させるような訛りはなくなっていた。 それでも、ドクドクと波打つ心臓は煩く、頭にばかり血流が集中しているかのよう。耳鳴りさえ感じる身体の異変に、サナは気づいていない。 「ヒロト」 そんな俺に気づいたのか気づいていないのか、容赦なく力づくで俺とサナを引き離すのは神楽。 慣れた体温が巻かれた腕から鎖骨あたりに伝わってくる。安心させるように背中から抱き込まれ、耳元を擽る声は心底心配そうに「大丈夫?」と呟いた。 「…誰、お前」 「サナ、やめろ…」 そんな神楽を睨みつけ、今にも殴りかかってきそうな雰囲気のサナを言葉で制止する。偉そうに命令するけど、あの頃とは違ってなんだか声が震えた。 「はじめまして、サナ。ちょっと、ここじゃできない話したいから、場所変えようか」 「はぁ?」 「店長ー、奥借りるねー」 「おう」 行こう、と手を引かれて奥にある個室へ誘導される。つながれた神楽の手がやたら暖かく感じるのはおそらく俺の手が冷たいからだろう。 待てよ!と文句を言いながらも着いてくるサナをさりげなく確認して、神楽はそのまま個室へ移動した。 プライベートルームと掛札がされているそこは、スタッフオンリーの部屋かと思いきやガッツリ個室の客席だ。 ソファも完備されたそこは酔っ払った龍聖メンバーが押し込められることが多い。本来は静かに飲みたい人のために作った部屋だと店長がいつか言っていた。 「座って」 「……」 俺を座らせて、その向かい側へサナに座るように促す。先程まで貼り付けていた笑顔はなく、真顔だった。俺の事を知っているイコール嶋家の人間だと言うことは、神楽にはもう話している。 一応、警戒しているらしい。 「…アンタ、誰?ひーちゃんのなに?」 「恋人?」 「殺すぞ」 冗談なんか通じない状況で何言ってんだコイツ…。 「あ、恋人はいずれ俺の立ちたい立ち位置で、今は違うけどね。なんだろ…保護者に近いかな」 「保護者だぁ…?」 「サナ、ちょっとごめん。神楽、一旦黙って」 なんだかややこしくなりそうな言葉のキャッチボールに待ったをかける。たぶん俺から説明した方が良さそうだ。 でも、その前に…。 「サナ、先に確認しておきたいんだけど」 「なに?」 「誰かの指示?」 「…ちがう。俺の独断」 「…そう」 念の為、だった。 それでも、今の俺の問いかけはサナを傷つけるのは十分だったようで、悲痛な表情でそれでも簡潔明瞭に答えてくれる。 「信じるよ、ごめん」 「…いーよ。仕方ない。で?こいつはなに?」 「……最初から説明するよ」 俺も端的に答えたかったけれど、俺と神楽の関係性を答えるには一言じゃ足りないなと思った。無理やりにでも一言で表すとしたら神楽の言った保護者が1番近いんだろう。 俺にとって、今は神楽が誰より何より信頼のおける相手だけれど、サナからしたら警戒対象でしかない。多少長くなっても、これはちゃんと説明しておくべきだなと判断した。 ****** 「改めて聞いても怪しいわ」 「それは否定できない」 「なんで!?」 ざっと、俺が屋敷を逃げ出してから、神楽に出会って現在に至る経過をサナに話した。その感想を抱くのも仕方ないほど、神楽の存在はイレギュラーで、悪くいえば怪しい他ない。 初めて出会ったわけアリの未成年拾うか普通? 当たり前のようになされたその行動は、俺にとってありがたいことこの上ないけれど、改めて話した俺でも謎。親か警察に話がいきそうなもんだけど、神楽はそれを一切しなかった。 「ひーちゃん、考え無しすぎ」 「ん…それは分かってる」 「だからなんでっ!?」 俺そんなに怪しい!?と喚く神楽には悪いが相当怪しい。ありえないと分かっているけれど、今神楽が嶋家の回し者だと言われても信じれそうなレベルで怪しい。
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