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「ほんと用心してや…ひーちゃん」
「……」
先程から付きまとう違和感に、ついじっとサナを見上げる。凝視されていることに気づいたサナがなに?と首を傾げるから、躊躇いなく聞いてみた。
「桃となんかあった?」
「……ひーちゃん、なんもないわけがない」
「ん…、そうだね」
なにもないわけがない。
そらそうだ。
俺が出ていって、1番に疑われるのはそりゃサナだろう。桃にはサナが殺されないように動いて欲しいことは伝えてきたけど、どうやらうまく動いてくれたようだ。サナはこうして生きているし、五体満足で俺の目の前に立っている。
それでも、頑張って訛りを矯正しようとしているところをみると、桃と単独で何かがあったらしい。
「えーと、サナ?初対面早々悪いけど、どうやってここ分かったの?もしかしてバレやすい?」
「気安くしゃべりかけんな、オッサン」
「おっ…、!?」
「アホみたいに分かりづらかったわ。おかげさまでこんな時間かかってしまった」
はぁー、と重々しくため息をつきながら、神楽をわざとおっさん呼ばわりする時点でサナの疲労度が伺える。おっさん呼ばわりに分かりやすくショックを受けている神楽の背中を慰めるように撫でながら、サナに目を向ける。
「どんな手使ったかは分からんけど、本家にはまだバレてない。でも同じ場所に長いこといるのはオススメしない」
「…分かってる」
ようやく。
ようやく、外に出れるようになって、ここで気の知れた友人もできた。でも、時間なんて限られている。別にすぐすぐというわけではない。移動しすぎてもバレるだろうし。
「俺が連れて逃げることも考えたけど…どう考えても俺といるほうが見つかるリスクは高い。葵もまさか見ず知らずの男と一緒にいるなんて思わないだろうし、とりあえずは様子見かな。言っとくけど、俺がすごいだけで、屋敷の連中は今も血眼なって探してるよ」
「…でしょうね」
主に葵あたりが。
俺を当主にすることになぜ拘るのかはいまだ知らない。葵がなればいい。よっぽど向いてると俺は思う。
「……」
でも、あんなクソみたいな家の当主なんてほんとは誰にもやってほしくない。
俺が、やるべきなんだと思う。
あんな、くそみたいなことが当主育成の一環なんだとしたら、俺以外の誰かがまた同じ思いをして、ナナシ以外の誰かが被害者になるってことなんだろ。
そんなの嫌だけど…。
「…うん、分かった」
嫌だけど、でも俺も無理。
「気をつけるよ」
「…そか」
サナが連れ戻しに来たわけじゃないことは分かっている。それでも改めて帰るつもりがないことを意思表明しておく。
独断で会いに来たってことは、協力してくれるってことなんだろう。二重スパイ的な感じで。
「ま、嶋の動向はまかせて。あっちに動きがない限りは、ひーちゃんも普通にしてていいでしょ」
「普通って」
「普通に、笑って、生きてればいいってこと」
よっこいせ、と立ち上がるサナ。
どこかへ行くつもりなのか、その動向をうかがっていると、急にキッと睨みつけてきた。
「言っとくけどアンタのこと信用してるわけじゃねぇからな」
俺じゃなくて、神楽を。
そんな言葉を向けられた神楽は、一瞬キョトンとしてなにかを考えていたけれど、結局分からなかったらしい。
「…別に、サナに信用される必要はないんだけど??俺はヒロトと一緒にいれたらそれでいいし」
「ッ!ひーちゃん!腹減った!一緒にご飯食べよ!」
「お、おうよ」
イラッとしたんだろう。
語気を荒らげて飯に誘ってくるサナにつられて、思わず立ち上がった。
******
「なんなんあの男…っ!ひーちゃんと一緒にいるってだけで腹立たしいのに…!大人しく俺のご機嫌うかがっとけよ!」
「はは…」
どんなキレ方だよ…。
苦笑いしながら、イライラなサナとカウンターで隣同士で座った。メニューをペラペラ捲ってるとこ悪いけど、Winstonは裏メニューのがおいしいので勝手に注文させてもらう。
店長はいつもどおり爽やかな笑みで応対してくれるが、まわりにいる龍聖メンバーはそんなことない。気になっているようで、先程から俺たちの会話に聞き耳をたてんとばかりに注目されていた。
おかげさまで、落ち着いて飲み物すら飲めやしない。見るなと言ったところで見るんだろう。だったら、ここはリーダーに頼るしかない。
「…ハヤト」
「あいよ」
「別に遠巻きに囲わなくていいから…。慌ただしくて悪い。俺の旧友が久しぶりに会ってテンション上がっちゃって」
「そんな感じか。ふーん…。じゃあ…そういうわけだから、お前ら散れ。別に修羅場でもなんでもないってよ」
そんなハヤトの言葉に、周りからえぇーという理解できないブーイングが飛んでくる。なんだよ、修羅場を期待していたのか?呆れてまわりを見渡せば、文句を言いながらもハヤトの言葉に従う連中がまた各々で集い出す。
騒がしくなる店内。いつもの風景にようやく落ち着けた気がした。
そんな中、ぽつりと立ちながら、何を考えているのか分からない顔でこちらを見ているジンに気づく。
「ジン、」
おいで、と手招けば一瞬でその顔はパッと明るくなり駆け寄ってくる。当然のように俺の隣に座るジンを睨むサナをやめさせて、とりあえずは他者紹介からはじめさせてもらった。
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